畳を健康食品に活用
このページは森田 洋先生の協力を得ています。

〜新しいイグサ産業の創出とイグサ農家の救済〜

 畳の原材料であるイグサを食用として用い、またイグサに活性酸素の消去能や大腸菌O157に対して抗菌効果があることから、健康食品や医薬品としての可能性を探る研究が、平成13年4月に新しく開設した北九州市立大学国際環境工学部の森田 洋講師(31歳、農学博士)らの研究グループにより行われている。
1 背景
 古くからイグサは畳として多くの家庭で使用されている。しかし近年になり日本のイグサ生産量は激減しており、熊本、福岡県などのイグサ産地に深刻な問題をもたらしている。経営に苦しむ農家のなかには、残念ながら命を絶つ者も毎年出ているのも現状である。このようなイグサ生産量の減少、イグサ農家の減少の背景には@建物の欧米化とA中国からの安価な輸入イグサの影響がある。近年になり建物の欧米化は著しく進んでおり、取扱いの便利さか新築住宅をフローリングにするケースが多い。和室の数もフローリングの普及により減少し、一家に和室一室というケースが増えている。さらにこれに拍車をかける形で、中国からの安価な輸入イグサの出現により、国内での生産量が激減しているというのが実情である。そこで北九州市立大学国際環境工学部の森田講師と熊本県内の様々な企業が連携して、イグサの需要拡大及び新しいイグサ産業の開発・発展を目的として、@イグサの食品に関する研究、Aイグサの効能に関する研究を行なっている。
2 イグサの食品化へのプロセス
 イグサをそのまま食品に使うことは、イグサは畳の原料であるから、畳を食べることを想像する。畳の独特の香りでは、やはりそのままでは食用に適さず、何らかの前処理が必要であると考えられる。イグサは灰汁が大変多い植物であることから、イグサを水煮処理(灰汁抜き)、酸処理、乾燥させることで、抹茶のようなさわやかな風味に変化させた。このイグサ粉末を用いて、熊本県ハ代郡鏡町のイナダ有限会社が饅頭、そうめん、うどん、ふりかけ、あめ、アイスクリーム、こんにゃく、茶などのイグサ食品の商品化に成功している。
3 イグサ食品の産業化
い草は食物繊維が100gあたり約63gもの量を占めています。
 八代郡鏡町の寿司屋、鮓平では、イグサを用いた創作料理を食べることができる。さらに八代市の大手結婚式場、ホワイトパレスのレストランではイグサそうめんをメニューに入れている。八代市の日奈久温泉にあるホテル、潮青閣でもイグサ創作料理が楽しめる。今後このような輪がさらに広がりを見せて、八代地方の名産・名物になるものと思われる。
4 イグサ食品の「健康食品」としての有用性
 しかしこのままでは、ただ単に「イグサ食品」が珍しいものとして、八代地方の名産・名物として受け入れられるだけに過ぎない。これではイグサの生産量増大には結び付かない。この「イグサ食品」産業を成長させていくには、イグサに付加価値を与える必要があると考えている。これが我々の研究グループが進めるイグサの効能に関する研究である。研究の結果、イグサには体によい、つまり様々な効用を有していることが最近明らかとなってきた。イグサの効能を次々と明らかにしていくことにより、イグサを健康食品として活用していくことができるのではないかと考えている。そしてこの健康食品を世界に向けて発信していくことで、国際競争力に強い産業を創出することができるのではと考えている。
4-1 イグサの効能;活性酸素の消去能
 酸素は我々ヒトにとって必要不可欠なものである。しかし近年「活性酸素」の研究が進むに連れて、酸素の「毒性」が明らかになってきた。酸素というものは文字どおり何でも物を酸化してしまうという働きがある。鉄が錆びたり、切ったりんごが黒くなってくるのも酸素が影響している。活性酸素は酸素の約1,500倍の酸化力を有している。活性酸素が全て悪いかと言うとそうではなく、少量の活性酸素は外部から体内に侵入してくる病原菌やウイルスを撃退してくれる免疫効果を発揮する。しかし体内に活性酸素が多く蓄積されてしまうと、正常な細胞までも傷つけガンを引き起こしたり、過酸化脂質をつくり動脈硬化を引き起こしたり、他にも糖尿病や老化(しわ、白内障、関節炎など)、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患など様々な病気を引き起こすことが知られている。疾患の約90%は活性酸素が原因であるとさえ言われている。  この活性酸素の消去にイグサがきわめて有効であることが明らかとなった。イグサ1gあたりで4,200単位のスーパーオキサイドラジカル(活性酸素の一種)を消去することが明らかとなった。青汁の原料であるケールでも同様に研究を行なったが、測定の結果880単位であり、イグサの約5分の1であった。活性酸素を消去する食品は赤ブドウや緑茶などのポリワェノール類やビタミンやミネラル類を多く含んだ青菜類やかんきつ類などが代表的なものとして挙げられる。イグサにはポリフェノール類、ビタミン、ミネラル類を多く含むことから、活性酸素の消去作用に優れていたのではないかと考えられる。  

活性酸素は
@食品添加物を多く含む食品を食べたり、
A酒やたばこを飲んだり、
B古いインスタントラーメン、サラダ油、スナック菓子などを食べたり(酸化油)、
Cストレスを感じやすかったり、
D空気の汚れたところで生活している、と体内にたまりやすい傾向がある。
しかしこれらは現代生活において避けては通れないものばかりであり、生活習慣から活性酸素を抑えることはなかなか困難である。活性酸素の蓄積を抑えるには、イグサのような活性酸素を消去する食品を日常的に食べることが必要であると考えられる。

4-2 イグサの効能:抗菌性
 昨年の夏に本研究グループはイグサに抗菌効果があることを明らかにしている。深刻な食中毒の原因となっている腸管出血性大腸菌O157、O26、OH1や日本の食中毒件数第2位にあげられているサルモネラ菌、昨夏の雪印脱脂牛乳事件で問題になった黄色ブドウ球菌、さらには腐敗細菌である枯草菌やミクロコッカス菌など多くの有害な菌に対してイグサは抗菌性を有していた。また都合の良いことに腸内細菌に対する抗菌性はなかった。抗菌成分の特定はこれからの課題であるが、酸や熱に強い物質であることが明らかとなっている。このためイグサを食べた場合、酸度が強い胃を通過しても抗菌性が失われない状態で速やかに腸に達することから、イグサの食中毒未然防止を目的した健康食品としての活用も考えられる。
4-3 イグサの効能;食物繊維としての機能
 イグサには食物繊維が100gあたり63gもの量を占めている。これは様々な野菜や穀類などと比べても、非常に高い値である。食物繊維は便秘予防、コレステロール抑制効果、血糖値上昇抑制効果、大腸がんの発生抑制効果など多くの効能を有していることが既に明らかとなっている。
5 まとめ
 今後も様々な効能について研究を行ない、イグサの健康食品としての可能性を広げていきたいと考えている。さらには様々なイグサ食品を開発することで、イグサ産地の名産・名物として全国、世界に発信していきたいとも考えている。イグサが「健康に良い」「環境にやさしい」ものであるということを、食品を通じてPRしてゆくことが、低迷している畳産業にとっても、必ずや復興の起爆剤になるものと思われる。今後も科学の力で低迷しているイグサ産地、そして全国に点在する畳屋を救うことができればと思っている

「北九州市立大学国際環境工学部  森田洋(農学博士)」